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覚悟とルイズと大男 ◆1qmjaShGfE 覚悟はルイズに肩を借りながら歩く。 何度も断ったのだが、意外に強情なルイズに押し切られてしまったのだ。 確かに、おかげで歩くのは少し楽であったが、この状態をいつまでも続ける事も出来ない。 「ありがとう、そろそろ体力も回復した」 そう言ってルイズの肩から腕を離す。 ルイズは疑わしげな目で覚悟を見ている。 「本当に? ……嘘だったら承知しないわよ」 「無論だ。この程度の痛みで動けなくなるような鍛え方はしていない」 「やっぱり痛いんじゃない!」 返答に窮する覚悟。 ルイズはふいっとそっぽを向く。 「ふんだ。どうして男ってこう痩せ我慢ばっかするのよ。痛いなら素直にそう言えばいいのに」 拗ねたルイズに覚悟は真顔で答える。 「男に限らない。戦士とはそういうものだ」 ちらっと振り返って覚悟を見るルイズ。 覚悟は終始真顔である。 「……変な人ね、あなた」 そう言われた覚悟は、またしても返答に困る。 口元に手を当てて少し考えた後、覚悟はルイズに訊ねた。 「もしかして、私は君の機嫌を損ねるような事を言ったか? 私にその意図は無かったが、そうだったのなら謝る。すまない」 今度はまじまじと覚悟を見つめるルイズ。 やはり覚悟は真顔であった。 ルイズは何やら納得したようだ。 「うん、やっぱりあなたは変な人よ。さっ、早く病院に行きましょう」 あっさりと機嫌を直してすたすたと歩き出すルイズ。 今度は覚悟が悩む番であった。 『……零よ、やはり女人は謎だ』 「ねえカクゴ、貴方は学校とか行ってるの?」 不意にルイズがそんな事を聞いてきた。 「うむ、逆十字学園に通っている」 「ふ~ん、じゃあもしかしてあなたも魔法使えるの?」 「いや、私は魔法は使えない」 「そっか~、じゃあやっぱり庶民なんだ」 聞き慣れない言葉に、覚悟は怪訝そうな顔をするが、ルイズは気にもせずに話し続ける。 「でも私は庶民だからって、貴方を馬鹿になんてしないわ。だって貴方はあんなに強いんですもの」 覚悟の脳内で等号が二つ繋がる。 魔法が使えない=庶民=馬鹿にする対象 「それは、魔法が使えなく、かつ弱い人間は馬鹿にするに足るという事か?」 「そ、そんな意味で言ったんじゃないわよ。ただ、ほら、やっぱりこういう事は最初に言っておかないと……」 ルイズなりに気を遣った結果なのだろうが、覚悟はまるで理解していない。 不思議そうな顔をする覚悟。 「もういいわよ! カクゴなんて知らない!」 ルイズは突然癇癪を起こして早足に林の中へ入っていってしまった。 そしてその場に取り残され呆然としている覚悟。 いくら考えても、何がどう彼女の気に障ったのか全くわからない。 しかし、このまま彼女を一人にするわけにもいかない。 覚悟もルイズを追って林の中へと入っていく。 「待ってくれルイズさん、一人で居ては危険だ」 「うるさいっ! ついてくるなバカカクゴ!」 絶好調に理不尽なルイズだが、覚悟は馬鹿正直に自分の非を探してみる。 先ほどの会話で、彼女の意図しない受け取り方をしてしまったのだろうか? 「俺が何か間違ったのなら謝る。だから止まってくれルイズさん」 「うるさいうるさいうるさーい! ついてくるなって言ってるでしょ!」 そう言われても、放っておく事も出来ず追いかけ続ける覚悟。 ルイズもルイズでそんな覚悟を無視してずんずん歩いていく。 不機嫌マキシマムのルイズは、ロクに前方の注意もせずに歩いていた。 そのため、木の根に足を引っ掛けてしまう。 「きゃっ」 小さい悲鳴と共にバランスを崩す。 それを見てとった覚悟が走り寄ってルイズの腕を掴もうとするが、そのルイズの姿が覚悟の眼前から消え失せる。 理由はすぐにわかった。 躓いたルイズがバランスを取ろうと伸ばした足の先、ちょうどその場所から少し急な勾配になっていたのだ。 「ちょ、きゃっ、何、これ、なんなのよーーーー!!」 うまい事木々の枝が折り重なってその先が見えないようになっていたらしい。 現に今覚悟からも転がり落ちるルイズの姿はよくみえなかった。 ルイズの悲鳴から、転がり落ちるスピード自体は大した事は無さそうだと判断出来たが、やはり怪我でもしては大変と思い、覚悟も彼女の後を追った。 埃まみれになって起き上がったルイズが悪態をつきながら顔を起こし、最初に目に入ったのは見上げんばかりの巨漢であった。 「……」 その巨漢は食事中であったらしく、手に明らかにサイズの合っていないサンドイッチを持っている。 彼はルイズに一瞥をくれた後、それ以上ひっくり返っているルイズに興味は無いとばかりに目線を外し、サンドイッチを一口に頬張った。 そんな態度がルイズの癇に障る。 「な、何よ貴方! か弱いレディが倒れてるのよ! 手ぐらい貸したらどうなのよ!」 鍛え抜かれた肉体を持つ巨漢を相手に厚顔不遜なこの態度、貴族の生まれは伊達ではないと言わんばかりである。 詰られた巨漢、ラオウはこんな女なぞ心の底からどうでも良かったが、こう近くで騒々しくされるのも何やら鬱陶しいので、黙らせようと考えた矢先、もう一人の乱入者が駆け寄ってきた。 「待てルイズさん」 ぎゃーぎゃー喚くルイズを片手で制してその男、葉隠覚悟はラオウと相対する。 覚悟は、第一声をあげるまえに、まずその頭を下げた。 「すまない、貴殿の食事を邪魔するつもりは無かった。彼女もこのような場所に来て少し興奮した故の発言だ。どうか、気を悪くしないで欲しい」 先ほどの戦いもそうだったが、やはりこの男は気骨のある男らしい。 そんな男の潔い態度は見ていて快い。 ラオウはルイズの時と同じように覚悟を一瞥した後、何も言わずに食事を続けた。 覚悟にはそれだけで意が通じたのか、再度一礼する。 「かたじけない」 そして蚊帳の外のルイズ。 「全然どういう話かわからないんだけど。カクゴ! 説明しなさいよ! 大体そこのおっきい貴方も、こんな危険な場所で食事なんて危機感が無さすぎなんじゃ……」 ぐ~~~。 ラオウも覚悟も一流の戦士である。 そんな二人が、音の出所を聞き逃すはずもない。 しかし、そんな事にまで思考の回らないルイズは全力で誤魔化しにかかった。 「だ、だだだ誰よ一体! わ、私が今危機感の話をしたばっかなのにお腹なんて鳴らして!」 ラオウは覚悟の方に首を向ける。 「故人曰く、女人と小人は御しがたし。だそうだ」 覚悟が彼女をどう捌くのか見てやろうというつもりらしい。 ラオウにとって女なぞどうでも良いし、覚悟にはその傷が治るまでは無理に手を出すつもりは無かったので、銀時の時とは少々違う対応となった。 覚悟はラオウの視線を受け、ルイズに言う。 「済まないルイズさん、ここに来てまだ一度も食事を取っていなかった。もし良ければここで食事を取りたいと思うが如何か?」 そう言われたルイズは良いとっかかりを見つけたとばかりに喰い付いた。 「や、やあね~カクゴだったの。しょ、しょうがないわねまったく、べ、べべべべつに私はお腹なんて空いて無いんだけど、カクゴがどうしてもって言うんなら……」 覚悟はラオウにも訊ねる。 「我々もご一緒させていただいてよろしいか?」 余りラオウ好みの捌き方ではなかったので、ラオウはつまらなそうに答えた。 「好きにしろ」 三人は円形に座りながら黙々と食事を取る。 覚悟は握り飯を既に三つ平らげている。 巨漢の男もバスケットに入ったサンドイッチをほとんど食べきってしまったようだ。 ルイズは何とも居たたまれない空気を感じていた。 『なんだってこんな無口な奴ばっかりなのよ~。もうちょっと場を盛り上げるとか、そういう配慮しなさい二人共!』 しかし、二人が全くそういう配慮をしない中、自分が率先してそうしてしまうのはちょっと悔しい。 結果、やはり無言のまま食事は続いていく。 巨漢はデイバックから飲料を取り出す。 それはガラスの瓶に入っているようで、蓋の部分が金属で覆われている。 『あれって、どうやって空けるのかしら?』 そんな事をルイズが考えていると、巨漢はその瓶の胴回りの部分を片手に持ち、残った手で蓋の部分に手刀を放つ。 ガラスで出来ていると思われたそれは、まるで紙か何かのように簡単に切り落とされた。 驚きに目を大きく見開くルイズ。 「ちょ、ちょっとちょっと! そこの貴方! 今何やったのよ!?」 それには隣で見ていた覚悟が答えた。 「手刀で切って落とした。修行を積めば誰でも出来る事だ」 「どんな修行よそれ! カクゴだって出来ないでしょあんな事!」 「可能だ。必要が無ければやらないが」 事も無げにそう言う覚悟に、別に大した事はしていないといわんばかりに平然としている巨漢。 少しだけ巨漢の事を見直したルイズは彼を改めて見てみた。 確かに鍛え上げられた肉体であるし、彼の持つ雰囲気は独特でえもいわれぬ迫力があった。 その巨漢の彼は、飲料を口に流し込むとほんの少しだけ眉をひそめてみせた。 「この飲み物は何だ?」 そう問うた巨漢に、覚悟が表情を変える。 「毒か!?」 その鋭い表情は巨漢の身を案じての事であり、それを察したラオウも過剰とも思える覚悟の態度にも大きく反応したりはしなかった。 「いや、毒ならばわかる。だが、これは何とも形容しずらい……貴様も飲んでみるか?」 そう言って覚悟に瓶を差し出す巨漢。 覚悟はそれを受け取り、すぐにそれを試そうとする。 「待ちなさいよカクゴ! もしかしたらそいつが私達を騙そうとしてるのかも……」 「断じてそれは無い。我が身を案じてくれるのは嬉しいが、戦士を貶めるような言動は控えていただきたい」 ルイズの台詞をみなまで言わせずぴしゃっと言い放つ覚悟。 何を持って覚悟がこの巨漢を戦士と認めたのかは知らないが、そう言った時の覚悟の言葉がいつもより強い物であったので、ルイズはそれ以上は言わなかった。 巨漢の勧めに従って、覚悟もその飲み物を口にする。 覚悟は、巨漢と全く同じリアクションをした。 「……確かに、これは……何と言ったものか」 難しい顔になる覚悟に、ルイズも少し興味を引かれたらしい。 覚悟からその瓶を受け取って自分も飲んでみる。 まず最初に、口の中に広がる泡に驚いた。 しかも、その泡は甘いのだ。 ルイズもやはり二人と同じように難しい顔になる。 「マズイって事じゃないけど、こんな飲み物飲んだ事無いわ」 難しい顔のまま、ルイズは瓶を巨漢に返す。 巨漢はそれを受け取ると、残った分を一息に飲み干し、ラベルを読んでみた。 「うむ、後味も悪く無い。こか・こーらというのかこれは?」 何故か鷹揚に頷く覚悟。 「ふむ、こかこーらか」 巨漢はデイバックから同じものをもう一本取り出し、また手刀で蓋を開けると、こかこーらを飲みだした。 そんな巨漢の様を見て、ルイズは初めてこの巨漢に親しみを覚えた。 『気に入ったんだ、コレ』 ふと、ルイズの目に開きっぱなしになっている巨漢のデイバックの中身が見える。 そこには、ランダム支給品の紙が入りっぱなしになっていた。 「あら? 貴方支給品はまだ見ていないの?」 巨漢はちらっとルイズの方を見ると、デイバックに手を伸ばし、二本の指で一枚の紙を拾い上げる。 そしてその指を軽く振ると、紙は折りたたまれた状態でまっすぐにルイズに向かって飛んでいった。 「わっ」 慌てて受け取るルイズ。 「俺には必要無い」 覚悟はその巨漢の何気ない動作に驚嘆していた。 折り畳まれていたとはいえ、あのように薄く柔らかい物を狙った場所に正確に投げる技術。 腕力だけの男ではないと思っていたが、その巨大な体にどれほどの技を秘めているのか。 そんな覚悟の思いを他所に、ルイズは紙の書かれた文字を見て歓喜の声をあげる。 「嘘っ! これキュルケの杖じゃない!」 ルイズがすぐに紙を開くと、書かれていた通り、小ぶりの杖が一本出てきた。 「これさえあれば、私も魔法が使えるわ!」 メイジと杖は不可分な存在である。どんなに優秀なメイジといえど、杖が無くば魔法を操る事は出来ないのだから。 それ故、杖が手元に無い不安感は大きい。そしてそれが解消されたルイズの喜びようといったら無かった。 「ねえ、本当にこれ私がもらっちゃっていいの!?」 「かまわん」 即答する巨漢に、ルイズは満面の笑みになる。 「ありがとう!」 覚悟はそれを微笑ましい顔で見ていた。 彼女がこんなに嬉しそうにしているのを見るのは初めてだ。 自分はこの笑顔を守る為に戦っているのだ。そう実感出来る、そんなルイズの笑みであった。 「これさえあれば、私だって活躍出来るわよ! カクゴだけに良い格好させないんだから!」 目を細めてそれを見ている覚悟。 「それは頼もしい。確か魔法うんぬんと言っていたが、それを使えば魔法が使えたりするのか?」 覚悟の言葉に、ルイズの表情が凍りついた。 「え? ああ、うん、そうね。ま、魔法はもちろん使えるわよ。なんたって私は貴族なんですから」 ルイズの表情の変化に覚悟は気付かない。 「なるほど、ルイズさんは魔法使いなのか。それで、その魔法というのはどんな事が出来るのだ? 一度見てみたいものだ」 どんどん窮地に追い込まれていくルイズ。 『あからさまに嫌がってるのがわかんないのこのバカクゴ! 本当に空気読まない人ね貴方は!』 助けを求めるように巨漢の方を向く。 「ねえ、貴方は魔法なんて別に見たくないわよね?」 巨漢は、まるで地を這う害虫か何かを見るような見下した目で、ルイズを見ていた。 沸点の低いルイズにこれに耐えろというのは無理な話であった。 「いっ、いいわよ! 見せてあげようじゃない! 私の魔法見て腰抜かしたって知らないんだからね!」 流石に怪我人である覚悟を巻き込んでは悪いと思い、少し離れた場所に立つルイズ。 「い、いくわよっ!」 静かに呪文を唱え始める。 それが中々に堂に入った唱え方だったので、覚悟も巨漢もそんなルイズの姿に見入ってしまう。 ルイズの前方に光が集まる。 そして、爆発した。 「おおっ!」 思わず声をあげる覚悟。 巨漢もほう、と息を漏らす。 そして爆煙に咳き込むルイズ。髪は爆風でぼさぼさである。 「も、もう一回よ! 今のはキュルケの杖だから失敗したのよ! 次は絶対うまくいくんだから!」 再度詠唱に入るルイズ。 巨漢は覚悟に聞いた。 「見たか?」 「見た。いや、見えなかったと言うべきか。何も無い空間に突然爆発が発生した」 「爆薬も火も無い。不可思議な事よ」 今度はより集中していたせいか、少しだけさっきより大きな爆発が起きた。 ルイズは乱れた髪を直す事すらせずにその場に座り込んでしまう。 大見得をきっただけに、二度の失敗は流石に恥ずかしいようだ。 覚悟はそんなルイズに拍手を送った。 「お見事。天晴れな魔法なり」 ルイズは覚悟の言葉にきょとんとした顔になる。 「え?」 「二度も見せてもらいながら、私にはどうやったのか見当もつかなかった。何も無い場所に爆発を起こす奇跡、いやお見事であった」 驚いて巨漢の方を見ると、彼もさっきの見下すような視線はしていなかった。 「そ、そう? 私そんなに凄かった?」 「もちろん。この覚悟、感服しました」 覚悟の馬鹿丁寧な賛辞に、ルイズは少しだけ自信を取り戻した。 「あ、ありがとう。そっか、二人共魔法を見た事が無いんだ」 少し照れながらそう言うルイズを見て、覚悟は彼女がまた気分良くなったと思い、安心する。 「しかしルイズさん、一つ気になる事があるのだが」 「ん? 何?」 「魔法が凄いのはわかったが、爆発の中心に居てルイズさんは痛くないのか?」 「痛いに決まってるでしょバカ!!」 もう何度目になるか、またまた機嫌の悪くなったルイズを他所に覚悟は巨漢の男と別れを告げる。 巨漢は最後に妙な事を訊ねた。 天に輝く北斗七星の脇に星は見えるかと。 覚悟もルイズもそんな星は見えないと言うと、彼はそれ以上何も言わずに去っていった。 一緒に行動しよう、そう声をかけられない雰囲気が彼にはあったのだ。 一目見た時からわかった、彼は生粋の武人であり、数多の戦場を戦い抜いた猛者であると。 それ故、極度の馴れ合いは彼の好む所ではないと考えたのだ。 しかし、覚悟は彼がルイズに笑顔をもたらした事を忘れるつもりは無い。 いずれ彼に助けが必要な時が来たのなら、全力で力になろう。 そう、心に決めたのだった。 【H-3 西部 林 1日目 早朝】 【葉隠覚悟@覚悟のススメ】 [状態]:全身に重度の火傷 胴体部分に銃撃による重度のダメージ 全身に打撲(どれも致命傷ではない) 強い決意 [装備]:滝のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS [道具]:ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾、残弾5発、劣化ウラン弾、残弾6発)@HELLSING [思考] 基本 牙無き人の剣となる。 この戦いの首謀者を必ず倒す。 1 病院に向かいルイズの言うとおり治療を受ける。 2 ルイズを守り、スギムラを弔う。 3:いずれ巨漢の男(ラオウ)の力になりたい 【ルイズ@ゼロの使い魔】 [状態]:右足に銃創 中程度の疲労 両手に軽度の痺れ 強い決意 [装備]:折れた軍刀 [道具]:支給品一式×3 超光戦士シャンゼリオン DVDBOX@ハヤテのごとく? キュルケの杖 [思考] 基本 スギムラの正義を継ぎ、多くの人を助け首謀者を倒す。 1 病院に向かいカクゴを治療する。 2 スギムラを弔う 3:才人と合流 【ラオウ@北斗の拳】 {状態}健康 {装備}無し {道具}支給品一式 {思考・状況} 1 ケンシロウ、勇次郎と決着をつけたい 2 坂田銀時に対するわずかな執着心 3 強敵を倒しながら優勝を目指す 4 先ほどの短髪の男(覚悟)が万全の状態になれば戦いたい 069 ハッキング 投下順 071 風を切る感覚 069 ハッキング 時系列順 071 風を切る感覚 030 A forbidden battlefield 葉隠覚悟 080 奥行きの操作は真正面から見てはいけません 030 A forbidden battlefield ルイズ 080 奥行きの操作は真正面から見てはいけません 030 A forbidden battlefield ラオウ 079 Blue sky
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『バジリスク ~甲賀忍法帖~』より薬師寺天膳を召喚 ルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ!- 01 ルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ!- 02
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「そんなに堅くならなくてもいいわよ」 「はっ、はい!」 シエスタは、エレオノールの気遣いに緊張して、かえって体を強ばらせていた。 モンモランシーはシエスタの隣に座り、馬車の窓から外を眺めている。 シエスタとモンモランシーの二人は、エレオノールの乗ってきた馬車に乗り込み、ラ・ヴァリエール領へと移動している最中だった。 シエスタとモンモランシーは魔法学院の制服姿、手持ちの小道具を入れた小さなバッグを脇に置いている。 エレオノールは飾り気のない白を基調とした服を着ており、魔法アカデミーの紋章が胸に刺繍されていた。 エレオノールは波紋についてシエスタに質問するが、緊張しているシエスタはうまく説明できず、そのたびにモンモランシーが説明を補足する。 だが、魔法学院では習わないような専門用語が出てくる度に、モンモランシーも狼狽えてしまう。 「オールド・オスマンの論文では、波紋はメイジも平民も等しく持つモノだとされているわね。体内を循環する血液に波紋は本来備わっていて、副次的作用として覚醒作用と浄化作用が……」 水系統を基にした、人体構造の研究にも目を通しているエレオノール。 彼女の知識はモンモランシーとは比較にならない程深かった。 「は、はい、たぶんそんな感じだと思います」 モンモランシーは冷や汗をかきつつ、曖昧な受け答えで誤魔化すことしかできなかった。 しばらく馬車がすすみ、外の景色が移っていくと、シエスタもようやく馬車の雰囲気に慣れてきた。 強ばっていた肩から力が抜け、どこか懐かしむように外の景色を見つめる。 「シエスタ?」 モンモランシーがシエスタ側の窓から外を見ると、外には草原が広がっており、その遙か先には森林が見えていた。 そよ風に吹かれた草花が柔らかい太陽の日差しを受けて輝いている、シエスタは故郷を思い出していた。 「あ、はい」 「あんまりきょろきょろしちゃ駄目よ」 「すいません、あの、草原が綺麗だったもので…」 エレオノールも外を見る、そして、少し目を細めてから、座席に座り直した。 「ルイズは、変わった子だったわ。あの子ったら子供の頃、カトレアのためにこの草原まで花を取りに来たのよ」 「ルイズ様が、ですか?」 ルイズと聞いて、シエスタが反射的に聞き返した。 「ええ。ヴァリエール家の中庭に、小さな花の種が風に乗って飛んできたの。 カトレアが『どんな花を咲かしているのでしょうね』なんて言うから、ルイズったら馬で遠乗りした時に、泥だらけになるまで花を探してたのよ。 この草原はルイズが花を探した場所なの」 「…そうですか」 「ねえ、魔法学院ではルイズがいろんな人に迷惑をかけたのでしょう?あの子、どんな事してたのか、教えて欲しいわ。それと貴方ルイズのこと知っているみたいだし、貴方のこと教えてくれないかしら」 モンモランシーはツバを飲み込んだ。その時の音が、やけに大きく聞こえたので、自分が緊張しているのだと理解できた。 魔法学院でルイズが何をしでかしたか、どれだけ被害を被ったか、馬鹿正直に話すわけにはいかない。 その上、シエスタはシュヴァリエを賜ったとはいえ元平民、貴族の上下関係厳しいトリステインで、田舎出身の平民がラ・ヴァリエール家の人間を診察するなど考えられない。 しかしシエスタは、隣で頭を悩ませているモンモランシーの思惑など知ったことではない、馬鹿正直に話をしてしまった。 「私がオールド・オスマンに『波紋使い』だと告げられる前は、魔法学院のメイドとして過ごしていました」 「……メイド?」 「はい、オールド・オスマンは、私の曾祖母『リサリサ』に恩を返すつもりで私を雇って下さったそうです」 隣に座るモンモランシーは『やっちゃった』と言わんばかりの視線でシエスタを見ていた。 ラ・ヴァリエール家の長女に『私は元平民です』などと言おうものなら、その場で馬車から放り出されてもおかしくない。 いや、怒り狂って自分も一緒にうち捨てられてしまうかもしれない、そんな物騒な未来予想図がモンモランシーの頭をよぎった。 「そうだったの。オールド・オスマンは貴方を保護していたとしか言っていなかったわ」 「保護ですか?」 「ええ。きっと、貴方が怪しまれるのを防ぐためじゃないかしら」 モンモランシーの予想に反して、エレオノールはシエスタが元平民である事実を受け止めていた、それどころか、あらかじめ知っていたかのような反応だった。 エレオノールは、リサリサと出会った後のオスマンが、どんな苦境に立たされていたのかを話し始めた。 当時、人間と亜人はまったく別の系統で発生した生物だとする学説と、人間と亜人は一つの根源から枝分かれしていったとする学説が対立状態にあった。 そんな時にオールド・オスマンは、『波紋』という未知の説を打ち出したのだ。 あらゆる生命体が持つ力であるが故に、系統魔法や先住魔法の力を底上げするという『波紋』は、すべての生物は根源が一つだと証明するものでもあった。 そのため、対立する学者達から命を狙われたのだ。 幸いにもオールド・オスマンの唱えた『波紋』は、ごくごく微々たる力でしかなかった、そのため彼自身の老化を遅らせることはできたが、他人にそれを分け与えることはできず、『波紋』はアカデミーから忘れられていった。 だが、それはオスマンの策でもあった。 『波紋』をメイジ同士の争いに利用されぬために、波紋使いである『リサリサ』の存在を隠すために、あえて『波紋』を役立たずであると印象づけたのだ。 シエスタを魔法学院で雇っていたのは、リサリサの血を引く一族へのせめてもの恩返しであった。 シエスタが『波紋使い』の素質があると知ってからは、シエスタを保護するために雇っていたのだと対外的に説明している。 そのためエレオノールは「オールド・オスマンは、シエスタを保護するために魔法学院で雇った」と思いこんでいるのだ。 「オールド・オスマンの研究は確かに素晴らしかったわ。でも、改めて読んでみると不思議な点がいくつかあるわね。たとえば貴方のような『波紋使い』の存在を隠すために、わざと不完全に書かれているみたい」 「そ、そうなんですか」 オールド・オスマンという人物の底知れなさに、シエスタは少しだけ驚いた。 モンモランシーも驚いている、スケベ爺が実は凄い人だった、そんな風に考えているに違いない。 「もし、その当時貴方のような『波紋使い』が世に出ていたら、きっと『先住魔法を使うエルフの間者だ』と誤解されて解剖されていたでしょうね。オールド・オスマンの先見性には驚かされるわ」 エレオノールがシエスタの瞳を見つめる。 「さ、この話はもういいでしょう。ルイズの話を聞かせてくれないかしら」 「はい。私がルイズ様からお声をかけて頂いたのは……」 エレオノールは、シエスタとモンモランシーの話を寂しそうに聞いていた。 モンモランシーが、ルイズの勝ち気さに愚痴を言うと、『あの子はそういう子だから』と言って笑った。 シエスタが、ルイズは魔法学院で働いている平民達にも気を配っていた、メイド仲間からも尊敬されていたと語ると、エレオノールは『あの子も成長したものね』と言って、ほんの少しの間だけ…声を殺して泣いた。 「…ごめんなさい、ちょっと、取り乱しちゃったわね」 エレオノールはそう言いながら、涙で濡れた目元を拭った。 「父が倒れたの。ルイズが死んだって聞かされて、相当こたえたんでしょうね。私も父も、魔法の出来ないルイズを叱ってばかりだったわ」 顔を上げると、シエスタとモンモランシーの顔を交互に見つめて、エレオノールは笑う。 「魔法が使えなかったら、貴族は貴族として認められないの。だから私も父も厳しく接してきたわ。でも、一度もルイズを褒めてあげられなかった……きっと、私と、父様を、ルイズは恨んでいたでしょうね」 「そんなことはありません。絶対に、そんなことはありません!」 シエスタの口調が強くなり、エレオノールが少し驚いた。 「ルイズ様は、土くれのフーケに立ち向かったんです。『立場における責任を果たす』と私に仰って下さったのは、他ならぬルイズ様です!そんなルイズ様が家族を恨んでいるだなんて……絶対に、絶対にありえません!」 「ちょ、ちょっとシエスタ、無礼よ!」 モンモランシーがシエスタの肩を押さえる、はっとして、シエスタの興奮は一瞬で冷めた。 「あ……す、すみません、あの、興奮してしまって」 急におどおどしだすシエスタを見て、エレオノールは、静かに微笑んだ。 「いいのよ。気にしないで…ね。到着したら妹にも、父にも、母にも、その話を聞かせてくれないかしら」 「…はい」 ごめんなさい、と、シエスタが心の中で謝った。 ルイズは生きている。 それも、吸血鬼として。 でも今は、シエスタが知る『尊敬するルイズ様』の姿をエレオノールに語るべきだと思った。 シエスタはもう一度、心の中で謝った。 もしルイズが心まで吸血鬼になっていたら、自分はルイズを殺さなければならないのだから。 エレオノールは、少しだけ救われた気がした。 自分の気の強さは、ルイズを厳しく教育するために養われたのかもしれないと思った。 ルイズが死んで以来、覇気が抜けてしまったのは自分だけではない、父も母も、口には出さないが心が疲れ切っている。 ルイズを溺愛していた、ルイズは誰よりも愛されていた! でもそれをルイズに語ることはできない、ルイズが貴族として、メイジとして一人前にならなければ、自分たちが死んだ後残されたルイズが苦労する。 だからルイズに厳しく接してきた。 そして、厳しく接し続けたままルイズは死んでしまった。 いや、ルイズを『貴族らしさ』という言葉で死に追いやったのは自分達だ。 本音を言えば、どんなに無様でも、ルイズには生きていて欲しかった。 けれども、シエスタの言葉を聞いて、自分たちがいつまでも悲しんではいられないのだと気付かされた。 父の教えが、母の教えが、自分の教えがルイズに伝わり、ルイズの言葉が、シエスタに受け継がれている。 ルイズは本当に立派になったのだ、そして死んだ。 だから自分たちもラ・ヴァリエール家の人間として、役目を果たさなければならない。 魔法アカデミーで一番刺々しい茨だったエレオノール、彼女の棘は、ルイズの死と共に落ちたのだ。 エレオノール、モンモランシー、シエスタ。 三人を乗せた馬車がラ・ヴァリエールの居城に到着する頃には、漆黒の空に二つの月が浮かんでいた。 「いらっしゃいませー」 その日も『魅惑の妖精亭』は繁盛していた。 ルイズは扉を開けて入ってきた客に屈託のない笑顔を向け、空席へと案内する。 フードを被った客は、席に案内されるとルイズを見上げて小声で呟いた。 「何をしてるんだこんな所で」 「え?……やだ、何言ってるのよ、貴方が教えてくれたんでしょ?」 フードの影から覗く瞳と金髪には見覚えがある、まごうことなき銃士隊のアニエス、その人だった。 「潜伏には魅惑の妖精亭がいいって言ったの、貴方じゃない」 「それはそうなんだが…」 「無駄話をしに来た訳じゃないんでしょ?ご注文は?」 「とりあえずコレとこれを貰おうかな」 「はい、ワインとシーザーサラダね、承りました」 トレー片手に厨房へと入っていくルイズを見て、アニエスは小さく呟いた。 「冗談のつもりだったんだが……」 ルイズとワルドが潜伏先に選んだのは、城下町ではそれなりに人気の酒場『魅惑の妖精亭』だった。 アニエスの部下がこの店で働き、情報収集を務めていたことがある。 そのため『情報収集を兼ねるなら魅惑の妖精亭がいい』と言ってしまったのだが。 アニエスとしては、アニエスの息がかかった秘薬屋や、郊外の隠れ家に潜伏して欲しかったが、すでに働き始めている以上取りやめろとは言えない。 露出度の高いキャミソール姿で給仕をするルイズ、それを見て、アニエスは再度ため息をついた。 今のルイズはルイズであってルイズではない。 『ロイズ』という偽名を名乗っているだけではなく、姿形も大きく違う。 まず、背が高い。アンリエッタより10サントは高い。 その上胸が大きい、中に何を詰めているのか知らないが、とにかく膨らんでいるのは確かだ。 そして髪の毛は茶色の染料で染められ、王宮を出る前に『固定化』をかけられている。 顔立ちも違う、鼻はほんの少し高く、いつものルイズよりほんの少し面長になっており、しかも口元には黒子までついている。 ごくごく親しい人間でも、一目で彼女をルイズだと見抜くのは難しいだろう。 「反則的だな…あの能力は」 アニエスは、変身前のルイズを思い出し、静かに呟いた。 厨房に注文を届けたルイズは、この店の店主であるスカロンと二~三言言葉を交わして、再度表に出て行く。 皿を洗いながらそれを見ていたのは、精悍な顔立ちの男性、ワルドだった。 店主のスカロンは、ワルドがルイズを見ていたのに気付くと、ワルドに近づいて肩を叩く。 「ロイズちゃん頑張ってるわねー!ロイドちゃんはお兄さんとして気になるかしら!」 「ええ、まあ」 髭を蓄えた中年の男性が、くねくねと体を揺らしながらオネエ言葉で喋るのはちょっと不気味だ、しかしミノタウロスを相手にするより遙かに気楽だ。 ワルドは照れくさそうに笑いつつ、皿洗いを続けていた。 この店でワルドは『ロイド』ルイズは『ロイズ』と名乗っている。 二人は訳ありの没落貴族という設定で、身分を問わずに雇ってくれる『魅惑の妖精亭』にやってきた… そういう設定なのだ。 ワルドは人間の腕と見まがう程精巧な義手を巧みに操り、皿洗いを続ける。 水をくむのが面倒なので、義手に仕込んだ杖から、魔法で水を継ぎ足しつつ、延々と皿を洗っていった。 ふと、手を休めて、給仕口から店内を見渡す。 料理を運んでいるルイズと目があって、ウインクを返された。 「訳ありの没落貴族か…駆け落ちみたいで悪くないな」 トリステインの貴族らしくない、奇妙な満足感に包まれて、ワルドは笑った。 ルイズはこの店で、ブルリンと旅をした数日間のことを思い出していた。 注意深く周囲を観察し、人々の会話に耳を傾ける。 ただそれだけのことなのに、ルイズの耳には刺激的な話がどんどん入ってくるのだ。 あの時ブルリンと会わなければ、五感をフルに使うことも無かったろうし、情報収集の大切さも気付いていなかったかもしれない。 商売のために高等法院の許可貰うに、どんな抜け道を使うとか。 脱税スレスレの節税方法とか、北側の衛兵のいい加減さとか… アニエスの部下が、情報収集のためこの店に赴いたこともあるそうだが、その理由が分かる気がした。 特に気になるのは、アンリエッタに関する噂だった。 アンリエッタは聖女といわれ讃えられているが、すべての平民がアンリエッタを讃えているわけではない。 そもそもの原因となったウェールズ皇太子との恋愛話は平民達の噂の的だった。 アンリエッタとウェールズが以前から恋仲だったと、まことしやかに噂されているが、ラブレターのことまでは噂されていなかった。 二人を称えるもの、けなす者、酒場には多種多様な客が来る。 ルイズは、この不思議な空間を気に入っていた。 「ねえちゃんワイン注いでくれよ!」 そう言いながら、酔った客の一人がルイズの尻を撫でる。 ルイズはすぐに振り向いて、テーブルに置かれているワインの瓶を手に取った。 「お触りはいけませんよ」 そう言って笑顔でワインを注ぐ。 ワインをつぎ終わり瓶をテーブルに置くと、その客はルイズの腕を掴んで、酒臭い息を隠そうともせずルイズに顔を近づけた。 「なあ仕事の後どうだい?俺とさぁ…あ、あれ~?」 ルイズは男の腕を払い、逆に握り返す。 「お客様、飲み過ぎですわよ」 掌から少しずつ、少しずつ血を吸っていく。 「あ~…飲み過ぎたか…なあ~………」 みるみるいうちに顔色が青くなり、男は眠るようにテーブルに突っ伏した。 「あら大変!」 それを見た他の店員がルイズに近づく、青ざめた客を見て、どうやら酒に悪酔いしたと思ったらしい。 「ロイズちゃんは注文を取りに行ってくれない?この人よく酔っぱらって寝ちゃうのよ」 「解ったわ、ありがとう、ジェシカさん」 そう言ってルイズはテーブルを離れる。 心なしか、ルイズの胸は先ほどより少し膨らんでいる気がした。 夜も遅くなり、客が少なくなった頃、黒髪の少女ジェシカがルイズを呼んだ。 「ね、ちょっとこれ手伝ってくれる?」 ジェシカの前には木箱が置かれており、そこには沢山の食材が入っている。 「わかったわ」 ルイズは短く返事をすると、重そうな木箱を軽々と片手で持ち上げた。 「どこに持って行けばいいのかしら」 「え……えーと、ついてきてくれる?」 ジェシカは、少し狼狽えながら倉庫へとルイズを案内した。 倉庫の中で木箱を開け、中身を棚に並べていく。 すると、不意にジェシカがルイズに耳打ちした。 「ねえねえ、あったしー、わかっちゃった」 「え?」 「訳ありって言ってたけど…身分違いの恋とか、駆け落ち?」 ルイズは唇を手に当て、少し考える仕草をすると、首を横に振った。 「私とロイドは兄妹よ」 だが、ジェシカは不敵な笑みを漏らすと、人差し指を立てて顔の前で左右に振る。 「あたしはね、パパにお店の女の子の管理も任されてるのよ。女の子を見る目は人一倍だわ。ねえねえ、どんな訳があるのよ。ただの駆け落ちじゃないでしょ?誰にも言わないから、ね?教えてよ」 ルイズが黙っているのを見て、ジェシカは微笑む。 「もしかしてぇ…貴族のロイドさんが、メイドの貴方に恋しちゃった…とか?」 内心では『あたしは公爵令嬢よ』と思っていたが、そんなことは口には出せない。 ルイズはジェシカの顔を見つめて、一つ、質問してみることにした。 「どうしてそう思ったの?」 「だって、あの人プライド高そうだもの。貴方はお尻を触られても飄々としてるじゃない、こういう仕事慣れてるでしょ」 ルイズは心の中で、少しだけ苦笑いをしていた。 自分はいつの間にか、平民が板に付いていたようだ。 「私が貴族で、あの人は従者だったの」 「まさかぁ!」 ジェシカが口を手で覆いつつ、笑う。 つられてルイズも笑い出した。 「本当よ」 「本当に?」 「じゃあ嘘でいいわ」 「何よ、ずるーい!」 ころころと笑うジェシカを見て、ルイズはふと何かを思い出した。 『そうだ、この笑顔…シエスタに似てる』 その頃、洗い物を終えたワルドは、ルイズよりも一足早く部屋に戻っていた。 ルイズとワルドに与えられた部屋は、ベッドが二つ並んでいるだけの小さな部屋で、余計なものは一切置かれていない。 ベッドの下に置かれていたデルフリンガーを取りだすと、鞘から少しだけ引き抜いてベッドの上に置く。 『ずいぶん繁盛してんなあ、この店。どーだい皿洗いは?』 「意外と疲れるものだな」 『そりゃそーだろ、ところで、嬢ちゃんは』 「ルイズなら倉庫だ、女性同士の内緒話だろう」 デルフリンガーと話をしつつ、ワルドは先ほどルイズから渡された紙切れをポケットから取り出す。 アニエスから渡された紙切れには、リッシュモン追跡の様子が簡潔に書かれていた。 「…………商人、か」 『ん?』 「メイジが商人に化けているようだ、そいつがリッシュモンの手先らしいな」 『そいつをどーするんだい』 「捕まえるさ、聞くまでもなかろう?」 『その後だ、殺すのか?』 ワルドは顎に手を当てて、しばらく考えこんだ。 「……衛兵に引き渡すさ」 『おでれーたな、おめえ、あのギラギラした殺気がサッパリ消えてやがる』 「ルイズのおかげだよ」 そう言いながら、ワルドはデルフリンガーをベッド脇に立てかけた。 「彼女の苦悩に比べたら、僕なんてちっぽけなものさ」 デルフリンガーも同じ事を考えていた。 彼女は、自分の幸せを犠牲にした分だけ、その周囲にいる人を助けている気がする。 『あー…考えてもしょうがねえなあ』 「ん?」 『なんでもねえ。おめえが嘘を言ってないのは解った。嬢ちゃんを悲しませんなよ』 「そのつもりさ」 ルイズは、フーケに、ワルドに、ティファニアに、アンリエッタに、ウェールズに、アニエスに『頼られている』 だが、彼女が『頼れる』人は居ない。 彼女が本来頼るべき母は、シエスタとモンモランシーの二人の到着を、笑顔で迎えていた。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (6)決死の一撃 「貴様!?まさか……シャイターン!?」 口から血の泡を漏らしながら、この世界で最も恐れられる種族の一つ、エルフの男が呟いた。 既に剣士人形ヨルムンガンドはただの残骸と化し、周囲に散乱している。 ワルドの放った手刀に胸から背中にかけてを貫通され、エルフのビダーシャルの生命の灯もまた、尽きようとしていた。 「シャイターン…これが!世界を汚した悪魔か!」 ワルドの口元がつり上がると、狂気を滲ませながら嬉しそうに、その手を捻った。 「エルフのビダーシャル。中々に面白い余興だったが、どうやら貴様でも私には役不足のようだな」 「ほろ、びよ、悪魔っ!、…我が一命をかけて!道連れにしてくれるっ!」 口から一際大きな血塊を吐くと、ビダーシャルはその両手をワルドの背後に回し、力の限り抱きしめた。 これから目前で行われる最高のショーに期待するワルド、力の限りしがみつくビダーシャルには目もくれない。 「滅…せよっ!」 閃光 圧縮 拡散 爆発 現れたのは小さな光球、それが周囲の空気を吸い込みながら一旦小指の先ほども小さくなり、そして突然に膨れ上がった。 ビダーシャルの命をかけた先住の魔法が発動し、オルレアン公屋敷が激しく振動する。 中庭に発生した地上の太陽により、破壊、蹂躙、一切の抵抗を許さない暴虐が生まれようとしていた。 何もかもを焼き尽くす超大な熱量が万物を無に返そうとその牙を剥く。 だが、暴君がオルレアン公爵邸を飲み込もうとしたその瞬間、幾重もの巨大な魔法円が現れ出でて、それを包み込んだ。 白球を包み込む魔法円、それに抵抗するように激しく暴れまわるコロナ。 広がろうとする力と、押さえ込もうとする力、それらが一瞬拮抗し、すぐさまその勝敗が決する。 地上に産声をあげかけた太陽は、時間を巻き戻すように急激に縮小していく。 そしてやがては蝋燭の火ほどにも小さくなり、消滅したのであった。 擂り鉢状になった爆心地、そこで唯一形を留めているものは、何事も無かったかのように佇む男の姿のみ。 ワルドが正面から屋敷に戻ると、そこには腰を抜かした老執事の姿があった。 気にせず客室も戻ろうとして横を抜けようとした時、ふと思いとどまり立ち止まる。 そうして腰を抜かしたまま、硬直している老人に語りかける。 「申し訳ないが紅茶が冷めてしまった。新しく入れ直してもらえないかな?」 一も二も無く頷いたペルスランが、足を縺れさせながら厨房へ走り去ってい姿を見て、ワルドは小さく笑うのだった。 タバサの手の中には一通の書簡が握られている。 ガリア王国、北花壇警護騎士団所属騎士タバサ、それが今の彼女である。 タバサは既に何度も読み返した書簡を広げ、その内容をもう一度確認した。 そこには大仰かつ、事務的な用句と文言で飾られた文章が踊っている。 その末尾には騎士団長のサインがなされ、これが公式な王国からの命令書類であることを示していた。 長々とした文章に対して、その内容は至って単純。 内容を纏めると以下のようなものであった。 「旧オルレアン公爵邸に潜伏している男を暗殺せよ」 内容を確認したタバサの表情がこわばり、歯噛みした音がならされる。 何故よりによって旧オルレアン公爵邸なのか。 旧オルレアン公爵邸、そこはタバサにとって最も重要な、聖地と言っても過言ではない場所である。 屋敷には老執事、数名の召使、そしてタバサの母がいたはずなのである。 突如届けられたこの奇怪な命令書には、オルレアン公爵屋敷の人間がどうなったのかは記されていない。 そこには王家に逆らう男が屋敷を占拠して潜伏しているとしか書されてはいない。 他に情報として示されているのは、既に数名の北花壇騎士が、男の討伐に投入されたらしいということくらいだ。 これは自分以外の北花壇騎士が既に男に葬られているらしいことを示唆している。 北花壇警護騎士団。 ガリア王家の汚れ仕事を一手に引き受けている組織である。 お互いに名前も顔も知らない、名誉とは無縁の闇の騎士達。 しかし、それだけにその実力は他の騎士団の騎士達を凌駕する手練達である。 その北花壇騎士が既に数名、投入されている。 これは明らかに異常な事態である。 トライアングルクラスのメイジであるタバサと同様かそれ以上、その上で勝つために手段を選ばぬ戦いのプロフェッショナル。 それらが赴き、帰ることが出来なかった死地、それがタバサの聖地の今の姿なのである。 書簡を握るタバサの手に汗が滲む。 これまで何度もガリア王家の命令を受け、それを実行してきたタバサである。 しかし、それらが手遊びに感じてしまうほどに、今回の命令は重く圧し掛かっている。 シャルロット・エレーヌ・オルレアン、それがタバサの本当の名前である。 王弟オルレアンの娘、つまりは王族である。 しかし、父は謀殺され、残った母は自分の身代わりに毒を呷って正気を失った。 王族という肩書きは呪いの様に彼女から様々なものを奪った。 彼女に残されたのは屋敷一つに我に返らぬ母のみ。 それらを守る為にタバサは騎士となり、王国に自身の有用性を示してきた。 たとえ王の気まぐれであろうとも、自身に出来る最善の努力、それが今生きている母と自分に繋がっていると信じている。 だが、書面を見るだけで感じる恐怖、それが一つの矛盾として浮かび上がってくる。 生きる為の努力、その延長上に感じる濃厚な死の気配。 けれど、やらねばならない、何よりも母の為に、タバサはオルレアン公爵屋敷へと戻らなければならない。 「きゅいきゅい!お姉さまどうしたの?顔色が悪いの、お腹でも壊したの?」 「なんでもない」 書簡を燃やし、既に支度を済ませてあった鞄を手に取るタバサ。 「おでかけ?おでかけなーのー?お姉さま!嬉しいな嬉しいな、お姉さまとお出かけ!」 「任務」 「えー、お城いくのお姉さま。お城喋れないから嫌い!きゅいきゅい」 タバサは文句を言っている使い魔シルフィードに構わずに跨った。 「城じゃない、屋敷」 「お屋敷?やった!じゃあ頑張る、きゅいきゅい!」 先ほどまでの黒い霧のような絶望感が、多少なりとも薄れたのを感じるタバサ。 その手をそっとシルフィードの首にやり、優しく撫でる。 「あっ!でもお腹すいたのお姉さま!」 「………」 力強く羽ばたくシルフィード。 進路は一路、暗雲立ち込めるガリアへ。 中々面白い趣向だよガリア王、しかし、それもそろそろ飽きた。 ―――閃光の影魔道師ワルド 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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朝食の時、ルイズの姿が見えなかった。 いつものならルイズのことなど気にもとめないが、昨晩のルイズはどこか奇妙だった。 もしかしたら風邪でも引いていたのか?ならば、あの奇行もうなずける。 キュルケは授業の前にルイズの様子を見に行こうと、心に決めた。 「ヴァリエール、遅刻するわよー」 そう言って何度か扉を叩く。 すると、ギィー…と、音を立てて扉が倒れた。 「きゃっ」 真っ暗な部屋の中でローブを被ったルイズが、小さく悲鳴を上げた。 「ちょ、あ、この扉壊れてるんじゃない?」 などと言いながらも、何となく気まずいと思ったのか、キュルケはルイズから目をそらした。 しかし、キュルケはルイズの異様な姿に気づき、ルイズをまじまじと見た。 ルイズは全身を覆う大きさのローブに身を包んでいた、まるでおとぎ話の悪い魔女のようだ。 その上部屋も真っ暗、窓があった場所にはベッドが立てかけられている。 「あんた何やってるのよ」 ルイズはキュルケの言葉には反応せず、自分の顔を撫でたり、部屋の入り口から入る陽光に手をかざしたりと、奇妙な動きをしている。 「…ちょっと、ヴァリエール?」 いくら何でも変だと気づいたキュルケが、ルイズの部屋に足を踏み入れようとした。 「あ、ごめん、何でもない…ちょっと変な夢を見ただけよ、遅れて出席するから先に行ってて」 そう言ってルイズはローブと寝間着を脱ぎ始めた。 「呆れた、扉開けっ放しで着替えるなんて大胆ねえ」 そう言ってキュルケは扉を持ち上げる、蝶番(ちょうつがい)は壊れたままだが仕方がない。 扉を立てかけると、キュルケは教室へと急いだ。 キュルケが教室に入ると、タッチの差で教師が教室に入ってきた。 教師のミセス・シュヴルーズは土の系統を得意とするメイジで、実力はトライアングルだそうだ。 どこからともなく机の上に石ころを生み出したり、その石ころを真鍮に変えたりして授業を進めている。 キュルケが真鍮を見てゴールドと勘違いしたが、それはご愛敬というものだ。 授業が中盤にさしかかったところで、突然教室の扉が開きルイズが入ってきた、今朝のような妖しい格好はしていない、いつも通りの服装だった。 ルイズはミセス・シュヴルーズに寝坊して遅れたと説明し、空いている席に着いた。 「…使い魔もいないんだぜ…」 「…誰でも成功するような召喚に失敗…」 「…寝坊なんて、頭の中もゼロ…」 と、後ろから小声で聞こえてくる、ルイズのことだろう。 ゼロのルイズ、魔法成功率ゼロのルイズは、召喚魔法をも失敗して使い魔がいない。 それを笑っているのだろう。 キュルケにはそれが無粋なものに聞こえた。 言いたいことがあるなら面と向かって言うのがキュルケの信条であり、キュルケの人気の秘密でもあった。 彼女は陰口を言わないし嘘も嫌いだった、その代わり人前で堂々と他人を批判するので恐れられてもいる。 そして授業は進められ、ルイズが遅れてきた罰として『練金』の実践を指名された。 「危険です!ゼロのルイズにやらせちゃいけません!」 「自殺行為です!」 「いや他殺行為です!」 「だ、誰かひらりマントを貸してくれ!」 途端に教室がうるさくなる。 ここにいる生徒達は皆、ルイズが魔法をやれば必ず失敗すると知っている、ミセス・シュヴルーズはまだそれを目の当たりにしたことがないのだろうと想像して、キュルケは早々に机の下へと潜った。 数秒の後に聞こえてきたのは、いつもの爆発音と…ミセス・シュヴルーズの悲鳴だった。今日の授業で、ミセス・シュヴルーズは何のミスもしていない。 小石を別の物に練金するようルイズに指導しただけで、手順にも何にもミスはない。 教科書通りの教え方と言えるだろう。 彼女は『ゼロのルイズ』と呼ばれている生徒がいるのは知っていた、その由来が『魔法成功率ゼロ』なのも知らされていたが、失敗に爆発が伴うとまでは知らなかった。 ましてや、その爆発がルイズ自身にまで酷いダメージを負わせるなどとは、まったく予想していなかったのだ。 ミセス・シュヴルーズは悲鳴を上げた後気絶した。 その日の晩、キュルケは男と遊ぶ約束をすべてキャンセルし、ルイズの部屋に見舞いに行った。 ベッドの上には、顔と手の肌がが見えないほど、包帯でぐるぐる巻きにされたルイズが眠っている。 ひどい火傷を負ったというのに、スピー…スピー…と、のんきな寝息を立てている。 時々鼻提灯まで浮かせて寝返りを打つその姿を見て、キュルケは安堵のため息をついた。 ルイズとキュルケ、二人だけの空間に、ノックの音が響いた。 返事を聞かずに扉が開かれ、キュルケの親友タバサが部屋に入ってきた。 ちなみに、土系統のメイジにより扉は修理されている。 「秘薬」 そう言ってタバサが袋を差し出す。 「ありがと」 キュルケは身近く礼を言うと、袋の中身を取り出した。 タバサが持ってきたものは水の秘薬、水の魔法だけでは、重い怪我を治療することはできない。 しかし秘薬を用いることで、治癒の効果を劇的に引き上げることが出来る。 その代わり非常に高価な物だが、上手く使えば切断された腕や足でも元通りに治るという代物だ。 「あたし、『水』は苦手だから」 キュルケはそう言って秘薬をタバサに渡す、タバサはそれを受け取ると、秘薬をルイズの身体に振り掛けつつ水の魔法を唱えた。 一通り魔法を唱え終わると、二人はルイズの部屋から静かに出て行った。 「ねえ、顔だけでも治せる?」 「秘薬をあと二回使えば大丈夫」 「じゃあどうにかして手に入れないとね」 「でも、高額」 「いーのよ、後でヴァリエールに請求すれば良いんだから」 「……優しい」 「ち、違うわよ、ほら……敵に塩を送るって言うじゃない」 「そういう事にしておく」 「ちょっとタバサ、あんた意外と意地が悪いわねえ」 仲の良い友達同士の会話、それが遠くなっていくのを確認してから、ルイズはベッドから起きあがった。 顔に巻かれた包帯を引きちぎり、ルイズは鏡の前に立つ。 そこに映っていたのは、傷一つ無いルイズの姿。 「秘薬……無駄に使わせちゃったかな」 そう言いながら舌なめずりをすると、唾液が唇を彩り、妖しげで艶やかな色を放った。 To Be Continued → 1< 目次
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手を使わずに、ペンを動かす。 これは別に何ら奇妙なことではない。 メイジは、ある程度なら簡単に自動書記が可能であり、あらかじめ鍛錬した動作であれば、軽く杖を振っただけでそれをトレースすることが出来る。 貴族は、その格式の高さから、封書を閉じる封蝋(ふうろう)と、その上に判子を押すという一連の動作を魔法で行う。 王族に近いヴァリエール家の者であれば、嗜みとして当然のことであったが、ルイズにはそれが出来なかった。 魔法成功率0%と呼ばれるだけあって、呪文を用いる魔法はほとんど爆発してしまう、呪文を用いないごく簡単な魔法は、発動すらしない。 そんなわけで、授業では必ず自分の指を使ってノートを取るルイズだったが、今日は違った。 最初に異変に気づいたのは『風上のマリコルヌ』だった。 トリスティン魔法学院では、様々な魔法薬の講義も行っているが、魔法薬の材料となる薬草、秘薬、その他の材料をいちいち消費するわけにはいかない。 黒板の前で大きな巻物が宙に浮き、そこには様々な素材のイラストが描かれている。 さながら写真のような精密さだ。 メイジは得意とする属性とは関係なく、魔法に関わる全般に詳しくなければいけない。 しかし彼らは自分の得意分野以外にはあまり興味がない、魔法薬を専門に学ばない限り、微細な特徴まで知る必要はないと考えているのだ。 ルイズはその中でも異端の異端、得意とする属性すら分からない状態なので、どんな種類の講義でも真面目に受けてようと努力していた。 この『イラスト』に関してもだ。 マリコルヌは、ふとルイズの席を見た。 さっきからペンを走らせる音が妙に大きいからだ。 ルイズの席は列の一番奥だが、その周囲2席分には誰もいない、何度も爆発騒ぎを起こしたルイズのそばに座る者は皆無なのだ。 間を2席開けて座っていたマリコルヌは、音の招待に気づいて驚いた。 シャシャシャシャ、ではなく、シャァァーーー、と音を立ててペンが紙の上を走っている。 ルイズも魔法が使えるようになったのか! と驚いたマルコリヌは、好奇心からルイズの席に近づくことにした。 席を一つ詰め、二つ詰め、ルイズの隣に座り、ノートをのぞき込んだ。 そこに描かれているのは教材のイラストと同じイラストだった、そのあまりの見事さに、風上のマリコルヌは思わず声を上げた。 「すごい…」 それに驚いたのはルイズだった、ぼーっと授業を受けていた彼女は、隣にマリコルヌが座っていることに気づいていなかった。 しかもノートをのぞき込んでいるのだ、声に驚いたルイズはマリコルヌを見、マリコルヌはルイズを見た。 その距離5cm。 「ぎゃあああああああああああああああ!!」 バッキョォォォォォォォン! 「タコスッ!?」 およそ貴族らしからぬ悲鳴を上げたルイズは、ノーモーションからのアッパーカットをマリコルヌに放った。 まるで分厚い鉄板に銃弾が当たったような音が響き、マリコルヌの体は宙に浮いた。 風上から風下に風がながれるが如く、上流から下流に水が流れるが如く、宙に浮いたマルコリヌの体は回転しながら床へと落下した。 「な、なんだっ!?土くれのフーケか!?」 驚いたギーシュは杖を手に取り臨戦態勢を取った。 キュルケもまた杖を構えて周囲を見渡す、よだれの跡を誤魔化しながら。 タバサは今日の授業も終わりかやれやれと言った表情で、ノートを片づけ始めた。 ルイズとマルコリヌを後ろから見ていたモンモランシーは、マリコルヌが授業中突然ルイズにキスしようとしたと説明し、マリコルヌは不名誉な烙印を押されてしまった。 そしてルイズは、モット伯の館で紛失してしまった杖を新調するためには、時間と手間のかかる『契約の儀式』を行わなければいけないと思いだし、ため息をついた。 放課後、杖を新調し、さて魔法を使うぞと意気込んだルイズは、魔法学院の外に直径20m程のクレーターを作ってしまった。 意気消沈するルイズに、見物に来ていたギーシュは「もう君を馬鹿にする者はいない、君は今日から爆発のルイズだ!」と言ったため、レビテーションもフライも使うことなく爆風によって宙を舞った。 それを見ていたキュルケは破壊力に驚き 「凄いわねえ、あれならトライアングルクラスのメイジでもイチコロよ」 と感心していた。 そしてタバサは、いつか役に立つかもしれないと思い、あの魔法の出し方をルイズに教えてもらおうなどと考えていた。 その晩。 思い通りに魔法が使えないルイズを慰めようとして、キュルケはルイズを馬鹿にし、タバサはかなり真面目に爆発魔法を教えてもらおうとしていた。 「あーもう、あたしに言われたって分かんないわよ!どうして爆発するのかこっちが聞きたいわよ…」 「ルイズったら短気ねぇ」 「あ ん た に 言 わ れ た く な い !」 キュルケとルイズの漫才が終わり、キュルケが部屋に戻ろうとした。 その時タバサが突然立ち上がり、こう言ったのだ。 「一蓮托生」 何のことはない、3人でトイレに行くという事だ。 キュルケが部屋の扉を開けようとしてドアノブを回すと、扉の脇に置かれたハンガーからマントが浮いて、ルイズの肩にかかった。 ハンガーは部屋の入り口。 ベッドは部屋の奥。 キュルケもタバサも、何が変なのか気づかなかった、魔法が使えればこれぐらい当然なのだ。 しかし、続いてルイズの杖が宙に浮き、主人の手に収まったのを目撃して、二人は声にならない悲鳴を上げた。 口を半開きにして驚いているキュルケ、実に珍しい光景である。 タバサはいつもの無表情だったが、ちょっとだけ漏れていた。 「…な、なによ、そんな顔して」 「あ、あんた今どうやって杖を持ったの?」 「手で取ったわよ」 「テーブルの上に置いた杖って、そこから手を伸ばして届く?」 「何言ってるのよキュル…」 そこまで言ってふと気づいた、そういえば、マントはどこに掛けてあったのかと。 ルイズはマントを取ろうとしたときと同じように、テーブルの上に置かれたタバサの本を取ろうとして、手を伸ばした。 いや、正確には『手を伸ばすイメージをした』だ。 タバサの本を掴む感触が伝わり、本が宙に浮く。 本の感触は確かにルイズに伝わっているが、ルイズの手が感じているわけではない。 もう一本の手がタバサの本を掴んでいる、そんな感覚だった。 じわり、じわりと何かが見えてくる。 よーく見ると、ルイズの腕から半透明の腕が伸び、タバサの本を掴んでいた。 「「「……………!!!」」」 そのころルイズの部屋の前で、顔に包帯を巻いた一人の男が立っていた。 風上のマリコルヌ、彼はルイズに誤解を解いてもらおうと思い、ルイズの部屋までやってきたのだ。 ルイズの顔をのぞき込んだ自分も悪いとはいえ、脳内にシーザァーと響きそうなアッパーカットを食らったのは納得できない。 でも爆発は怖い。 誤解だけでも解いて貰わなければ、授業中にルイズを襲ったという不名誉な噂がついて回る、それだけは勘弁して欲しかったのだ。 ルイズの部屋をノックしたマリコルヌは、その扉が微妙に開いているのに気づき、部屋の中をのぞき込んだ。 ノックの音に気づいた三人は扉を見た。 先ほどキュルケが開きかけた扉の、わずかな隙間がゆっくりと開かれ、包帯まみれの風上のマリコルヌが姿を見せた。 「るいぐぅ~ごうのことはおがいなんらおぉ~」 (ルイズー、きょうのことはごかいなんだよー) 「「「…………!!!!」」」 翌日、風上のマリコルヌがよく座る席に、一輪の花が手向けられていたという。 おまけ マリコルヌ「おぐはまらいんれらーい!」(僕はまだ死んでなーい!) シエスタ「あのー、マリコルヌさん、シビンはこちらに置いておきますから」 マリコルヌ「からががうごかららいんら…てつらっれふれらい?」(体が動かないんだ…手伝ってくれない?) シエスタ「うわ…最低」 マリコルヌ「あ…ほどめ、そんはへでみらへはら、ほぐ…」(あ…その目、そんな目で見られたら、僕…) シエスタ「なにこの人…気持ち悪い」 マリコルヌ「はあ!もっほ、もっほのろひっへ!」(ああ!もっと、もっと罵って!) マリコルヌは後に「まんざらでもなかった」と語ったそうな。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-14]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-16]]}
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「おい、アイツを一人にして良かったのか?」 ヒムは一人疑問に思った顔で二人に問う。 「彼は前回自分の所為でレオナ姫をあの男に攫われた。その事に対してポップは責任を感じていた事でしょう。 一人で闘うと言った彼の男気を曲げる訳にもいきません。それに、彼はきっとあの男に勝てるでしょう!」 アバンの自信にヒムも笑うしかなかった。 『はは、弟子が一人で闘うってのに肝が据わってやがる。』 そんな三人は暗黒に包まれる魔界の大地で一筋の光を見た。 「見た所祭壇のようですが・・・」 三人が光り輝く祭壇の中心に見た物は青白い渦だった。 「これは噂に聞く旅の扉か?」 ラーハルトは唖然とした顔をしている。 「旅の扉って何だ?」 「簡単に言えばこの渦と同じ渦がある場所にワープするという代物です。 一説によれば地上にもあると言われていますがここにきて初めて本物を見ましたね。」 学者家系のアバンの博学にヒムも舌を巻く。 「おーーい!!!!」 その時上空からポップがアバン達の元に駆けつけていた。 「ポップ!あの男に勝ったんですね?」 アバンの言葉にポップが軽く頷く。 「闘いが終わって空から皆を探そうと思ってたら光ってる所があったんで見てみたら先生達がいたんですよ。 それにしてもこれ何ですか?」 アバンは先程ヒムにした説明をポップにもしていた時、祭壇の奥から声が聞こえる。 「皆!やっぱりここにいたのね!!?」 「マァム!!!?」 ポップは臨戦態勢に入っている。理由はこの魔界に入っているとは考えがたく、またかつてザボエラの謀略で騙されたこともあり、 慎重になっていた。他の三人も同意見である。 「なんか少し疲れてる様にも見えるけどやっぱり怪しい、本物ならこれを避けられる筈だ!!」 ポップはメラゾーマを放つ。 「へ、ちょ、ちょっと何してんのよ!!!」 メラゾーマを避けたマァムはそのままポップを殴り付ける。 「や、やっぱり偽物か?」 ヒムを除く三人は本人だと確信していた。 『この一撃の重さ・・・間違いない。』 マァムに踏み付けられながらポップは悟る。好きな人に踏み付けられているポップは傍から見るとイキかけている様な顔をしていた。 「まあまあ、その辺でやめておきなさいマァム。それよりどうしてあなたはここに?」 マァムは今までにあったことを話した。 「・・・という訳なんです。」 マァムのこの行動に三人は開いた口が塞がらなかった。 「もしアイツに殺されたらどうするつもりだったんだ!!?」 ポップがマァムに怒鳴る。マァムも自分の軽率な行動を恥じていた。 その後五人は旅の扉に入る事にした。 「もしかしたらこの先にダイ君がいるかも知れませんからね。物は試し、入ってみましょう。」 五人が旅の扉の上に立った瞬間、その場から姿を消した。 「へえ、こんなところに旅の扉があったのか。兵を集めて奴等を追うか。」 テマリは微笑みながら旅の扉を見つめる。 「うわ~~~~!!!!!」 五人が辿りついた先、それは薄暗い城の内部の個室だった。 「この暗さはまるで地下のようですね。」 アバンが辺りを見回すが旅の扉以外は何も無い。出口さえ無かった。 「こんな辛気臭え場所にいたら鼻が曲がっちまうぜ。」 ヒムは闘気拳で壁を殴る。大体の話では壊れない様なシナリオだがこの壁は容易く破壊出来た。 「あらま、こんなに簡単に・・・」 ポップは呆気ない展開にずっこける。 「とりあえずそこに階段がありますから登りましょうか。」 「ここは、どこかで見た気がするのは俺だけか?」 ラーハルトの疑問は全員が持っていた。やがてその疑問は実際の物となる。 「ここで大きな音がしたのだ・・・が・・・?」 「ベンガーナ王!!!???」 今回の魔界突入メンバーは成果を得られず地上に帰る羽目になった。 ~魔界~ カンクロウが倒れた事に拠って地上制圧を先延ばしたヴェルザーは思わぬ来客と話していた。 「久し振りだな、冥竜よ。」 「貴様は・・・ダークドレアム!!」 冥竜王と最強の魔神、二人が初めて出会った四千二百六十三年前、ヴェルザーはダークドレアムと闘ったことがあった。 「バーンでさえ貴様と闘った事はないだろう。貴様と闘って生き延びていられたのはオレだけだからな。 あの日から差は縮まるどころか益々伸びていく、そしたらいつの間にか貴様は姿を消した。死んだと思っていたがな。」 「俺は三万年の間戦い続けてきた魔界の神だ。そう簡単には死なぬ。それにしてもしばらく大人しくしている内にバーンが魔界の神を名乗っていた事は驚いた。」 ダークドレアムはさらに続ける。 「お前とボリクスの戦いも俺は鮮明に覚えている。中々竜同士の戦いも悪くない。」 「昔話をしに来た訳ではないだろうダークドレアム。何の様だ?」 ヴェルザーは息を巻いてダークドレアムに近づく。しかしダークドレアムはまるで物怖じしない。 「いや、最近地上でも魔界でも”光の教団”というカルト教団が布教していてな。どうもきな臭い。 心当たりはないか?」 「そんな事、オレの知ったことではない。」 そう告げたヴェルザーの脳裏にゲマの顔が思い浮かぶ。 「もしかしたらミルドラースが関係しているかも知れんな。」 「ミルドラースか・・・」 心なしかダークドレアムの顔は笑っていた。 その頃、地上では”光の教団”の信者達が増え続けていた。
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この、トリスティンの魔法学院には、ゼロと呼ばれるメイジが居た。 魔法成功率ゼロ、それが彼女のあだ名の理由だった。 メイジは、ある時期になると使い魔を召喚し、一人前のメイジとしての第一歩を踏み出す。 言い換えれば、使い魔の居ないメイジは、見習いのメイジなのだ。 ゼロとあだ名される女性、ルイズは、使い魔を召喚するサモン・サーヴァントの儀式に失敗し、同級生からの失笑を買い、失意のまま寮の自室にこもっていた。 いや、正確には失敗したわけではない。 失敗したと申告してしまったのだ。 ルイズはベッドの中で、奇妙な石の仮面を撫でた。 サモン・サーヴァント時、爆風と共に現れた仮面。 ルイズは爆発の土煙が晴れないうちにそれを拾い、懐にしまい込んだ。 幸い誰にも見られなかったようで」、コルベール先生が儀式を続けるように促す。 しかし、今度は爆発すら起こらない。 背後からヤジが飛ぶ、ゼロのルイズ、やはり失敗かと。 ルイズは二度目以降のサモン・サーヴァントが起こらないのを見て、ああ、この石仮面が私の使い魔なのかと、心の中で呆れていた。 そして『使い魔はこの仮面です』と申告するのを止め『失敗しました』と申告したのだ。 こんな仮面など壊れてしまえばいいと思った。 使い魔が死ねば再度サモン・サーヴァントができるのだから。 ハンマーでも用いて破壊してしまえばいい、そう思ったのだ。 ルイズはこの仮面を壊す前に、ふと思い立って、仮面を被ってみることにした。 何の変哲もない仮面だ、被ってみてもなんの反応もない。 もしこれがマジックアイテムだったら… そんな想像をして、すぐにその考えを否定した。 これがマジックアイテムなら、もう何か反応があって然るべきだろう、やはりこの仮面はただの仮面なのか…ルイズは落胆する気も起きずに、薄くヒビの入った石仮面の表面を撫でた。 そして、薄く微妙にとがったヒビが、ガラスで手を切るように、紙をなぞって指を切るように、ルイズの指を薄く裂いた。 「!」 痛い、と思う暇もなかった。 ビシビシビシビシ 石の仮面から嫌な音が響き、次の瞬間 バシッ! ドスドスドスドスドスドスドスドスッ! 石仮面から突き出た、骨のような棘が、ルイズの頭を突き刺し、脳内がスパークした。 間に何秒かあっただろうか、ハッと我に返ったルイズは、誰が見ても即死だと思うほどの棘が刺さったのをものともせず、石仮面を力づくで床にたたきつけた。 ばちっ、と、とても石が砕ける音とは思えない音で仮面が砕け、その破片が部屋の扉の蝶番をを破壊した。 ギィィィーと音を立て、扉が倒れる。 ルイズの部屋の前を通りかかったキュルケは、倒れた扉を見て驚いた。 「ちょっとヴァリエール、あんたねえ、部屋で何やってるのよ、破片がこっちまで飛んできて危ないじゃない」 キュルケがルイズの部屋を覗くと、ルイズは地面に石仮面を投げつけた姿のまま、首だけをキュルケに向けてぼうっとしていた。 「…つぇ るぷ…すとー?」 「何やってんの?あんた」 キュルケはルイズの足下の床が砕けているのに気づいたが、いつもの失敗だろうと勝手に納得した。 ルイズの部屋は爆発の破片が飛び散り、カーテンが破けて酷い有様だった、キュルケは自分の事を棚上げしてルイズの部屋の惨状に呆れた。 「部屋で魔法の練習をするのはいいけど、せめてあたしの部屋まで壊さないで欲しいわね」 いつものように憎まれ口をたたき、ルイズをからかおうとしたキュルケだったが、今回はいつもと調子が違った。 キュルケに近寄り、ルイズはおもむろにキュルケに抱きついた。 「………ちょ、ちょっと、ヴァリエール」 ルイズは眠そうな目つきのまま、キュルケを見上げた。 そして、「ハァァァァア」と、とても甘く切ない息を吐いた。 それを嗅いだキュルケの意識が、少しぼやける。 最初は違和感だけだったが、いつの間にかキュルケの意識は宙に浮いたような感覚に包まれていた。 男性に抱かれてもこうはならない、身体の力が抜け、宙に浮くような怠惰の快感がキュルケを襲う。 そしてルイズは赤子のように、母親にじゃれつこうとする赤子のような笑顔を浮かべて、口を開いた。 「カハァアアアアアアア…」 褐色の肌、燃えるような髪、そして豊満な身体。 ルイズは純粋に、それを「欲しい」と思った。 私はキュルケが好き? 好き!だって、とても可愛いし、とても美味しそう… そこまで考えて、ルイズの動きが止まる。 これじゃあまるで吸血鬼じゃないか、私はメイジ、そして貴族だ。 ルイズはキュルケから離れ、ベッドに腰掛けて、ふぅとため息をついた。 「あれ?」 我に返ったキュルケが惚けた表情を浮かべる。 「大丈夫よツェルプストー、ちょっと失敗しただけだから」 ルイズがそう言うと、キュルケは自分が何をしにルイズの部屋に入ったかを思い出した。 「あ、ああ、そうね…って失敗するなら尚更部屋でやっちゃ危ないわよ!」 「ふふっ、ごめんなさい、ところでツェルプストー」 「な、何よ」 「心配してくれるのね?貴女って、可愛いわ…」 キュルケは驚き、そして、慌てた。 「ななななな何言ってるのよ!」 「冗談よ、でも、貴女でも慌てるのね。…やっぱり、可愛い」 「あ、あたしにそっちの趣味は無いわよ」 流石にもう慣れたのか、キュルケはヤレヤレと言った態度でルイズの部屋から出て行った。 ルイズは倒れた扉をはめ込み、テーブルの端を引きちぎってくさびの代わりとした。 とりあえず扉を閉めることが出来たので、ルイズは服を脱ぎ、そして全裸になった。 (ツェルプストー、綺麗だったなあ…) そう考えながら自分の喉に指を突っ込む、指はずぶりと皮を貫通し肉を貫通し、筋肉の感触を脳に伝えた。 (あの豊満な胸、かわいい、噛みちぎってあげようかな) 喉に突っ込んだ指をナイフに見立て、そのまま無造作に胸の前まで引いた。 (ちぃ姉さまが動物を飼うのが分かる…取るに足らない生き物って、とても可愛いんだ…) 喉から胸までが、醜く引き裂かれたに見えたが、流れる血は皮膚に吸収され、めくれ上がった皮膚とちぎれた肉は瞬時に再生し、傷一つ残らなかった。 (ツェルプストーの胸…) ルイズは自分の腕に噛みつき、チューチューと血を吸った。 そのままベッドに入り、すぐにルイズは眠ってしまった。 夢の中ではキュルケをはじめとする生徒達の身体に噛みつき、とてもご満悦だった。 ルイズは、赤子が母親の乳にしゃぶりつくように、朝まで自分の腕から血を吸い続けていた。腕を朝までしゃぶっていた。 To Be Continued → 目次
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アルビオンの首都、ロンディニウムの外れ。 いかにも安っぽい作りの宿屋に、髭面の大男が入っていく。 「姉御、駄目だったよ」 男は椅子に座ると、ベッドの上に座るルイズに言った。 「どこも貴族派の口利きばかり?」 「ああ、ジョーンズが探してくれてはいるけど、期待はしねぇでくれってさ」 「…そう」 数日前、ルイズが王党派につくと言った時、ブルリンが驚いた。 ルイズは聞き耳を立てて知っていたが、ブルリンは王党派の現状が絶望的だとルイズに忠告し、何度も考え直せと言った。 しかしルイズは頑として聞き入れない、一度決めたことは全うする、それがルイズの頑固なところだった。 仕方なくルイズに折れたブルリンは、ジョーンズに王党派への口利きを頼んだ。 しかし、口利き先もほとんど潰されてしまったらしく、王党派に雇われるのは困難らしい。 何せ王党派は賃金も安いし勝ち目も少ない、貴族派はまず傭兵の口利き先を掌握していた。 王党派に協力しようとする者を探しだし、それを秘密裏に処分したり、より高い賃金で雇うのだ。 ジョーンズの話では、貴族派が登場する前にも、アルビオン王家にはお家騒動があったとまことしやかに噂されている。 ルイズは、信憑性が高いと睨んだ。 なぜなら今回の内乱はただのクーデターではなく、様々な人の思惑の混じった、泥沼の戦いに発展しているからだ。 貴族派の噂は決して良いものではない、農村部からの物資略奪はもちろんのこと、占領した町の民を餓えさせ王党派を誘い出すやり方や、空軍戦力をわざと町に落としアルビオン王家の信頼を失墜させる自作自演。 すべては噂の域を出ないが、なぜかルイズにはその噂を信じる気になっていた。 それには、何処か憎めない、ブルリンという男のキャラクターが助けていたのだが、本人はそのことに気づいていない。 「とにかく、俺はもう一度探してみるよ」 「アタシも行くわよ」 「いいって!それに、昨日酒場でとんでもない豪傑女が居たって、姉御のこと噂されてるんですぜ」 「そう…分かったわ、ここ(宿)で武器の手入れでもするわよ」 ブルリンが宿を出たのを確認すると、ルイズは浅茶色のベッドで横になった。 吸血鬼になったおかげか、オークやトロル鬼の血を吸う生活のおかげか、ルイズは貧しい平民が利用する宿屋でも平気だった。 以前のルイズならば、魔法学院の部屋以上の部屋でもなければ泊まろうとも思わなかっただろう。 ブルリンは『傭兵になるのなら風呂に入れないのは覚悟しなきゃ』などと言っていたのを思い出す。 吸血鬼の肉体は垢も汗も体臭もコントロールできるので、風呂に入れなくても不都合はないし、ノミが血を吸おうとしても血が出ない。 清潔を心がけ、香水で身だしなみを整えていた頃の自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる程だった。 「…デルフ、あんた、どう思う?」 ルイズが寝そべったまま、壁に立てかけてあるデルフリンガーに聞く。 『何がだよ』 「貴族派の首謀者よ、クロムウェル…」 『虚無の力に目覚めて、貴族の心を掴んだって奴か?うさんくせぇなあ』 「私も信用できないと思うわよ、夢物語が過ぎるわ…デルフはどうして胡散臭いと思ったの?」 『いや、なんかさあ、どっかに引っかかってんだよなあ、虚無ってどっかで聞いたような…うーん』 「アンタずいぶん古そうだもんね、始祖ブリミルにでも会ってたりして」 『いや、俺を作ったのはブリミルなんだけど、漠然としか記憶に残ってないんだよな』 「…プッ、あんた冗談が上手いじゃない」 『おいおい、冗談じゃねえぞ、俺は何せ6000年も生きてるんだかんな!嬢ちゃんよりずっと年上だ』 「6000年…ね」 ルイズは考える。 自分はまだ二十年にも満たないが、吸血鬼の寿命は極端に長く、これから先いくらでも生きていられるという自身がある。 200歳、300歳の吸血鬼が討伐されたという話はたまに耳にする。 しかし、6000年も長く生きた吸血鬼の話など聞いたことはない。 デルフリンガーは一種のマジックアイテムとして意志を持ってはいるが、それは人間より吸血鬼に近いものなのだろう。 傭兵になろうと思ったのは、本当に金を稼ぐためだろうか? もしかしたら、誰かの記憶に残りたいと思っているのではないか。 もしかしたら、死を偽装したのは、間違いだったのでは… 思考の海に沈みそうになった時、一階からブルリンの声が聞こえてきた。 『何しやがる!このっ、くそっ!』 ルイズは意識を覚醒させ聴覚に集中する。 「…足音、六つかな」 中央から床板のきしむ音、ブルリンだろう。 その周囲を囲む足音は、床板がきしむ音に合わせてどたどたと動いている。 ブルリン一人を五人で取り押さえようとしているのだと分析し、ルイズはベッドから飛び降りた。 『嬢ちゃん、俺を使うのか?』 「ここじゃ使わないわ」 フードを深く被り、デルフリンガーを背負う。 剣の扱いは素人同然なので、ルイズはデルフリンガーを使わぬよう、鞘に入れたまま部屋を出る。 屋内で振り回したら建物ごと破壊してしまう。 もっとも、素手でも十分破壊できるのだが… 一階に下りるとブルリンが他の傭兵らしき男達に押さえ込まれていた。 「何やってんの、あんた」 「ちょっ、姉御!逃げてくれよ!」 ブルリンが『姉御』と呼んだのに気づき、ブルリンの腕を縛り終わった傭兵がルイズの腕を取る。 そのままデルフリンガーも回収されてしまったが、ルイズは特に抵抗もせず縛られることにした。 「あんたねえ、こう言うときはお互いに知らんぷりするんじゃない?姉御だなんて呼んで、馬鹿じゃないの」 「そっ…そんなこと言ったってよぉ」 取り押さえられながら、情けない声を上げるブルリンと、余裕そうなルイズ。 そんな二人の会話を中断するかのように、傭兵の一人が割り込んできた。 「お喋りはそこまでにしろ、王党派を貴族派に差し出せば報酬が貰えるんだ、大人しくしてりゃ怪我はさせねえよ」 「くそっ、やっぱり貴族派の連中かよ!くそっ! …あ痛ぇ!」 傭兵の一人が、騒ごうとするブルリンをきつく縛り上げる。 「ブルリン、言われたとおりにしましょう…ね」 床に転がされているブルリンが、フードに隠されたルイズの顔を見上げる。 ルイズの瞳は、血のように鈍く輝いていた。 「親方、そっちはソースの鍋ですよ、しっかりなさってください」 「ん?ああ、すまん」 トリスティン魔法学院の厨房、その料理長のマルトーに覇気がない。 慣れた料理にも、ちょっとしたミスをしそうになり、仲間のコック達が心配するほどだ。 その原因は、数日前に厨房を辞めていった使用人の少女シエスタにある。 料理長のマルトーは、シエスタが何か粗相をしてクビにさせられるのかと思いこんでしまった。 驚いたマルトーは、オールド・オスマンを問いただそうとした。 しかし、厨房の仲間達は『いくらなんでもそりゃ無茶だ』と言ってマルトーを止めようとする。 力づくでも学院長室に乗り込みそうなマルトーを迎えに来たのは、ミス・ロングビルだった。 この件についてオールド・オスマンから説明があると伝えられ、マルトーは学院長室に入っていった。 「オールド・オスマン…」 「おお、すまんのマルトー、優秀な人材を奪うようで気が引けるんじゃが」 「い、いいえ!あの、それより、シエスタが粗相をしてもこれは厨房全員の責任です、あの娘一人に責任を押しつけるのは」 「ふむ、何か誤解しているようじゃな、何か粗相があって辞めさせるわけではないぞ」 「で、では、何処かに身請けさせられるんで?」 「身請けというより、入学かのぉ」 入学って何のことだろう…と、マルトーは首をかしげた。 「入学って言いますと、も、もしかして、そういうプレイを」 「それは秘書で試すわい、シエスタはここ、トリスティン魔法学院に入学という形になるんじゃ」 「へっ?」 マルトーが呆気にとられる。 ミス・ロングビルは後でオスマンを簀巻きにして流そうと考えたが、話の続きを聞くためにあえて黙っていた。 平民のメイドが突如魔法学院に入学という異常な事態、興味が湧かない方がどうかしている。 「すまんの、マルトーはシエスタの保証人でもあったからの、追々伝える予定じゃったが」 「はぁ…もしかして、シエスタがここに入学できるって事は、シエスタのじい様は本当に貴族様だったんですかい」 シエスタのじい様と聞いて、オールド・オスマンの目が一瞬だけ鋭くなる。 しかし、すぐにいつもの優しい視線に戻ると、静かに語り出した。 「…正確にはシエスタの曾祖父母の話になるがの」 オールド・オスマンがマルトーに事の次第を説明している間、シエスタは空の上にいた。 『きゅいきゅい』 (お姉さま、やっぱりこの人もメイジだったのね、他の人と違うにおいがするの!) 「あまりはしゃいじゃ駄目」 『きゅい』 (はーい) シルフィードがテレパシーのようなものでタバサに語りかける。 タバサはシルフィードに乗っていても本を手放さず、素っ気なく返事をする。 今朝、タバサとキュルケはオールド・オスマンに呼び出され、シエスタをタルブ村へと急いで連れて行けと指示されたのだ。 まだ空に不慣れなシエスタを後ろから支えながら、キュルケが話しかける。 「上質のぶどう酒が採れるんですって? 楽しみね」 「そんな、貴族様にお出しできるようなものじゃありません、自分で飲むために作ってるんですから」 「そうなの?」 「ええ、ひいお婆ちゃんが草原の一角を葡萄畑にして、自分で作っていたのを細々と続けているだけなんです」 シエスタは魔法学院の制服を着て、オールド・オスマンから渡された30サンチ程の杖を身につけている。 マントに慣れないのか、時折位置をただしている。 「あの…驚かれないんですか?」 「何が?」 シエスタの唐突な質問にキュルケが返す。 「だって、私、この前までメイドだったのに、突然メイジになれだなんて言われて…」 「あら、トリスティンならともかく、ゲルマニアなら経済力や商才があれば、貴族にもなれるし公職にも就けるのよ?」 「えっ、そうなんですか」 「そうよ!実力があれば平民も貴族になれるの、不可能を可能に出来る人って素敵じゃない?」 「はあ…」 「あなたも実力を見いだされたんだから、ちょっとは自信を持ちなさいよ」 シエスタの心の中に、ルイズへの思いが募る。 ルイズと入れ替わるかのように知り合った二人の貴族、キュルケとタバサ。 ルイズの死んだ場所に行ったあの日、シルフィードはシエスタを見て『太陽の臭いがする』と言い出した。 ある日、キュルケのサラマンダーまでもが同じ事を言い出したのだ。 不思議に思ったキュルケがタバサに聞くと、シルフィードも同じ事を言っていたと聞き、キュルケはシエスタを「不思議な平民」だと思っていた。 だが、オールド・オスマンの鶴の一声で、トリスティン魔法学院に入学させられる程だとは考えてもいなかった。 ゲルマニアは実力主義の気があり、魔法だけでなく平民の工業技術にも力を入れている。 トリスティンは貴族主義的な気があるので、平民がどんなに努力してどんなに功績を立てても、シュヴァリエ以上の名誉が与えられることはない。 しかしゲルマニアは違う、その能力と財力次第で公職にも就くことができる。 そんな国出身のキュルケでも、以前ならシエスタを平民上がりかと小馬鹿にしていたかもしれない。 ルイズが死んでからというもの、キュルケは後輩を気遣うことが多く、特に下級生から慕われることも多くなっていた。 何よりも、勝ち気なルイズとは正反対の大人しさを持つシエスタに、ルイズの面影が見えた気がしたのが、その原因だろう。 オールド・オスマンの話では、シエスタはルイズと同じか、それ以上に特殊なケースらしい。 シエスタはルーンを詠唱することで発動する魔法ではなく、口語によって発動する魔法に特化しているそうだ。 そのため、今まで魔法の才があるとは思われていなかったとか。 ルイズの件で反省し、魔法に対する認識を改めたオールド・オスマン。 彼はシエスタを特別なケースとして魔法学院に迎え入れ、既存の魔法だけでなく新たな魔法の発見に力を入れるのだそうな。 キュルケの興味は、『どんな魔法も爆発させる』仇敵ラ・ヴァリエールの娘から、 『水の魔法より純粋な生命力を操る』元平民のメイジへと移っていた。 [[To Be Continued → 仮面のルイズ-14]] ---- #center(){[[12< 仮面のルイズ-12]] [[目次 仮面のルイズ]]} //第一部,石仮面
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~たのしいトリステイン~ 題字:大和田秀樹(嘘) 第一話~わたしがルイズです~ トリステイン魔法学院、この学校では2年生に昇級する際、あるひとつの儀式を行う それはここで学ぶ魔法使い達にとっては一生の問題でもある『春の召喚の儀式』 一生涯のパートナーでもある使い魔を呼び出す儀式である ここにその儀式に挑む、一人の少女がいる ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール この物語の主人公である 彼女は名家の生まれでありながら全ての魔法が失敗する、しかも爆発すると言う、学院創立以来の劣等生として通っている 事実、彼女はすでに何十回も召喚に失敗しては爆発していた。 級友の殆どは彼女に対し、口汚く罵り、嘲り、笑った。 だが、彼女は一つも諦めてはいなかった そしてその思いは遠く、遥か彼方の地で同じく 気高く、己を貫き通す男に使役されていたモノに届く 「こぉーーーーーーーい!!」 もう呪文も何も無い、魂からの叫びと同時に今まで以上の爆音が土煙がおこる そしてその中から影が浮かび上がった ルイズは薄れ行く土煙から影を見て 心から願った もう平民でもいいから何かきてくれと しかしその希望は嘆息に変わっていった 土煙の中から現れたモノ それは・・・・・・・ それは触覚の様なモノに鏡を生やしていた、不思議な一つ目をしていた、椅子がついていた、竹やりの様なモノが生えていた 二つの車輪で大地に立っていた 後ろにゆくにしたがって凶悪な姿をしていた 「コルベール先生・・・・・召喚のやり直しを」 さすがのルイズも使い魔を呼び出したつもりが見た目からまったくの無機物だとわかるモノを使い魔とするのはどうかと考えやり直しを要求するが 「・・・・それは出来ません、春の召喚の儀式は神聖な儀式なのです」 監督していたコルベールの一言によって彼女も意を決した 「五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え我の使い魔となせ」 目?と思わしき部分にルイズは口付けをする、と同時に使い魔の情報が、使い方が、そして何か巨大な意志の強さみたいなものが彼女に流れ込む 使い魔の正面にルーンが刻まれた 「全員、無事に召喚 出来ましたね それでは戻りましょう」 コルベールの言葉とともに皆が魔法で空に飛び学院に帰って行く 一人ルイズだけを残して 「ゼロのルイズ、お前は歩いて帰ってこいよ!!」 「けっ、ゼロのルイズが」 彼女に様々な罵声が浴びせられる しかし彼女は動じなかった この程度なら慣れている それに今は・・・・・・この使い魔がいる 彼女は自分の使い魔にまたがる、使い方なら契約した時に頭に流れ込んできた、乗馬は得意だから乗りこなせるだろう ギャアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオ!! 大爆音が地面を揺るがす、後ろをゆっくりと飛んでいたマリコルヌは見た 地面を土煙を上げ猛スピードで走ってくるルイズとその使い魔を その光景を見た彼は後にこう友人達にこう言ったという 『まるで・・・・・悪魔を見ていた様だった』と ルイズは使い魔に乗り、風を切って走り抜けていた、顔が綻ぶ これはいいものだと直感的にわかった そして、ルイズは喜びのあまり使い魔の名前を無意識に叫んでいた 「パッソーーーール!!」 大和田秀樹 たのしい甲子園 より 悪魔のパッソル を召喚